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エスケープレミアム無機——「無機」という名前の、中身の話

「無機だから、いちばん長持ちします」。そう説明されて、上のグレードに手が届きそうな金額を提示された方へ。まず知っておいてほしい事実がひとつあります。この塗料は、無機100%ではありません。それはメーカーが隠している話ではなく、製品の一般名称そのものに「ハイブリッド」と書かれています。そして混ぜてあることには、塗り替えにとって明確な理由があります。公式資料だけを使って、順番に整理します。

このページの内容全13項目

「無機塗料」は、無機100%ではありません

エスケー化研の製品ページで、この塗料の一般名称はこう書かれています。

公式に記載されている一般名称

「超低汚染ハイブリッド水性無機塗料」(エスケープレミアム無機)

「超低汚染ハイブリッド二液弱溶剤形無機塗料」(エスケープレミアム無機マイルド)

どちらにも「ハイブリッド」が入っています。技術の説明でも「無機成分をナノレベル(分子レベル)で複合化する無機ハイブリッド技術」と書かれています。

つまり「無機」は、素材が100%無機であることを意味していません。無機成分を有機樹脂と複合化した塗膜、というのが公式の説明です。

これはエスケー化研に限った話でもありません。たとえば水谷ペイントのナノコンポジットWは、カタログで「無機の正体は超微粒子シリカ」と自ら種明かししています。無機系塗料の実体がハイブリッドであることは、業界の標準的な設計です。

これは施主にとって重要です。「無機=最上位グレード」という理解のまま金額の上乗せを受け入れると、何に対して払っているのかが分からなくなるからです。混ぜてあること自体は欠点ではありません——次の節でその理由を書きますが、まず「無機」という言葉が製品カテゴリの名前であって、成分比の話ではないと押さえてください。

なぜ混ぜてあるのか——塗り替えだからです

理由は公式にはっきり書かれています。

エスケー化研の製品ページより

「無機成分の優れた剛性に加え、有機樹脂の柔軟性を併せ持った塗膜を形成するため塗り替えに最適であり、躯体や基材等の下地を長期に亘って保護するなど、種々の優れた塗膜性能を発揮します」

さらに「柔軟性」という項目が独立して立てられ、「有機樹脂の柔軟性を併せ持つため、『水性弾性サーフエポ』などとの組み合わせにもご使用いただけます」と書かれています。

読み解くとこうなります。無機成分は硬くて強い。しかし硬いだけの塗膜は、動く下地の上では割れます。住宅の外壁は、温度で伸び縮みし、地震でも揺れます。特に塗り替えは、新品ではない下地——すでに動いた履歴のある壁——の上に塗る工事です。

だから有機樹脂の柔軟性を残す。「弾性の下塗りと組み合わせて使える」と公式が明記しているのは、その柔らかさが設計に織り込まれている証拠です。ひび割れの追従が要る壁でも使えるようにしてある、ということです。

ここが、この製品を評価するときの起点になります。「無機100%に近いほど良い塗料」ではなく、「塗り替えで割れずに長持ちする配合になっているか」が本題です。名前の響きではなく、こちらで見てください。

公式スペック

エスケー化研の製品ページに掲載されている内容です。

項目エスケープレミアム無機
一般名称超低汚染ハイブリッド水性無機塗料
区分水性塗料/一液/無機系/ラジカル制御/超低汚染性/防かび・防藻性
希釈清水
つや艶有り、半艶、3分艶(3段階)
荷姿15kg石油缶、4kg缶
標準塗坪43〜68㎡/15kg缶
ホルムアルデヒド放散等級F☆☆☆☆
用途戸建て住宅・中低層集合住宅の内外装/店舗・事務所・工場・倉庫などの内外装
備考「下地の種類に応じ、適切な下塗材を選定してください」

一液である点は、施主にとって地味に効きます。二液型は現場で主剤と硬化剤を計量して混ぜる工程があり、比率や可使時間の管理が必要です。一液はその工程がありません。公式も「材料の計量、調合、撹拌等の煩わしい作業を省略でき、安定した性能を提供します」と書いています。二液型の何が分かれ目になるのかは塗料の種類のページに書きました。

無印と「マイルド」の違い

検索でも並んで出てくる2つです。違いは水性か弱溶剤か、そして一液か二液かで、性能グレードの上下ではありません。

エスケープレミアム無機エスケープレミアム無機マイルド
種別水性塗料弱溶剤形塗料
液型一液二液(主剤12.5kg+硬化剤2.5kg)
希釈清水塗料用シンナーA
つや艶有り・半艶・3分艶(3段階)艶有り・7分・5分・3分(4段階)
公式が挙げる強み「水性であるため溶剤中毒や火災の心配も少なく、作業環境の向上に役立ちます」「弱溶剤で構成されているため、旧塗膜の種類を問わず、優れた密着性、下地適用性を示します」
用途の記載戸建て・中低層集合住宅/店舗・事務所・工場・倉庫戸建て・中低層集合住宅/各種金属部位など
標準塗坪43〜68㎡/15kg缶43〜68㎡/15kgセット
公式サイトの掲載色数44色49色

使い分けの目安は、公式の書きぶりから素直に読めます。

  • 前に何が塗ってあるか分からない壁マイルド(弱溶剤)側に「旧塗膜の種類を問わず」と書かれています。塗り重ねの相性が読みにくい現場では、この一文が効きます。
  • 臭いを抑えたい・住みながら塗る水性の無印側です。ただし水性も無臭ではありません。臭いの実際は臭いのページに書きました。
  • 鉄部や金属部位までそろえたいマイルドの用途に「各種金属部位など」が入っています。
  • つやを細かく決めたいマイルドのほうが段階が多い(4段階)。無印は3段階です。つやのページもあわせてどうぞ。

色数も少し違います。公式サイトに並んでいるSR色を数えると、無印が44色、マイルドが49色。マイルドにだけあるのはSR-131・SR-415・SR-419・SR-422・SR-423の5色です(2026年9月9日確認)。気に入った色番号が決まっている方は、それがどちらに載っているかを見てください。ただし色は調色でも作れるので、「この色がないから無理」とは限りません。まず聞いてみる話です。

どちらを使うかは下地と現場の条件で決まる話で、施主が指定する部分ではありません。見積書にどちらが書かれているかを見て、「なぜこちらですか」と聞ければ十分です。

「超低汚染」の中身は3つあります

この製品でいちばん前面に出ているのは、耐久性より汚れにくさです。公式は理由を3つに分けています。

要素公式の説明
親水性「一般的な塗料は降雨時に雨水を弾いてしまうため汚れが残ってしまいますが」、親水性が高いと雨水と汚れを合わせて洗い流す
低帯電性塗膜表面の静電気が汚れを引き寄せる。無機系塗膜は静電気を帯びにくい
高い架橋密度一般的な塗料は表面のわずかな隙間に汚れが入る。緻密な表面で汚れの定着を防ぐ

ここから逆算すると、この塗料の価値が出やすい家が見えてきます。交通量の多い道路沿い、北面の汚れが気になる、前回の塗装で雨だれの筋が目立った、といった条件です。逆に汚れがそれほど問題になっていない家では、超低汚染にお金を払う理由は薄くなります。

なお、汚れの原因がコケや藻の場合は話が別方向に進みます。日当たりと水はけの問題なので、コケ・カビのページもあわせて読んでください。色の選び方で汚れの目立ち方を変える手もあります(グレーのページ)。

耐用年数の数字が、何を測ったものか

この製品を紹介する記事には「約20年」といった数字が並びます。当サイトはその数字を採りません。公式が年数を明示していないためです。公式ページに載っているのは次の2つです。

  • 「塗り替えサイクルの目安」グラフとして掲載され、「※塗り替え年数は目安です。建物の立地条件、環境等によって異なります」と注記されています。
  • 「促進耐候性試験(キセノンランプ法)」比較の根拠として、この試験方法名が明記されています。試験機の中で紫外線と水を当て続けて劣化を早める試験で、実際の屋外の年数とは別のものです。

メーカーが試験名を書いているのは誠実です。そのうえで施主が読み替えるべきは、「◯年もつ」ではなく「同社の従来品と比べて劣化が遅い」という相対的な話だということ。公式の比較対象も「従来のふっ素樹脂塗料やシリコン樹脂塗料」と書かれています。

グラフのほうは、読めます

年数が書かれていないだけで、グラフには目盛りが入っています。当サイトで読み取った結果を置きます。

まず「塗り替えサイクルの目安」。横軸は新築・改修時/10年/20年/30年の4つの目盛りだけで、帯の端が何年かという数字は書かれていません。ただし帯の位置は読めます。

 30年のあいだの塗り替え回数1回目の帯が終わる位置
エスケープレミアム無機シリーズ2回(30年の時点でまだ2回目の途中)10年と20年のあいだ(20年の少し手前)
従来シリコン樹脂塗料3回(30年を過ぎて4回目に入る)10年の目盛りのところ

2026年9月9日に、エスケー化研公式の特集ページと製品ページに掲載されている「塗り替えサイクルの目安」の図を、当サイトが読み取ったものです。メーカーは帯の端に年数を書いていません。目盛りとの位置関係から読むと、無機シリーズの1回目はおよそ18年に当たります。図には「※塗り替え年数は目安です。建物の立地条件、環境等によって異なります」という注記が付いています。

ネット上で見かける「約18年」「18〜20年」といった数字は、この図を読んだものと位置は合います。ただしメーカーが年数として書いた数字ではありません。「メーカーが18年と言っている」と書いてあるページを見たら、そこは一段割り引いて読んでください。

そしてこの図で本当に効くのは、年数そのものより回数です。30年で3回塗るのか2回で済むのか。30坪の外壁塗装は当サイトの目安で約100万〜130万円なので、1回分の差は100万円規模になります。無機の材料代が高くても、回数が減れば逆転しうる——これがメーカーの言いたいことです。逆に言えば、その家に30年住むつもりがないなら、この図は自分の話になりません。

キセノン試験のグラフも、数字が読めます

もうひとつの「促進耐候性試験(キセノンランプ法)」のグラフは、縦軸が光沢保持率、横軸が照射時間(0〜5,000時間)です。5,000時間まで照射した時点の光沢保持率を読むと、こうなります。

グラフ5,000時間での光沢保持率
エスケープレミアム無機(水性)約91%
水性汎用ふっ素樹脂塗料約73%
水性汎用アクリルシリコン樹脂塗料約66%
エスケープレミアム無機マイルド(弱溶剤)約91%
汎用弱溶剤形ふっ素樹脂塗料約80%
汎用弱溶剤形シリコン樹脂塗料約69%

数値はエスケー化研公式のグラフから当サイトが読み取ったものです(2026年9月9日確認)。無印とマイルドは別々のグラフで、比較対象がそれぞれ「水性の汎用品」「弱溶剤形の汎用品」になっています。促進耐候性試験は試験機の中で紫外線と水を当て続けるもので、屋外の年数とは別のものです。

ここから3つ読めます。

①無機は、ふっ素より上に置かれています。「フッ素がいちばん上」という感覚で見ていると逆に見えますが、この試験ではふっ素樹脂塗料のほうが先に落ちています。グレードの序列そのものの話は塗料の種類とグレードのページに整理しました。

②無印とマイルドは、同じ約91%です。水性か弱溶剤かで数字は変わっていません。前の章で「グレードの上下ではない」と書いたことが、メーカーの試験データでも裏づけられます。見積書がどちらでも、耐候性で損をしているわけではありません。

③比較相手は「汎用品」です。他社の上位グレードと比べた図ではありません。メーカーが自社の試験で自社製品を比べている資料なので、そこは差し引いて読んでください。それでも試験方法と時間が明記されているだけで、年数だけを書いた広告よりは確かめようがあります。

実際の壁は、方角・雨がかり・日照・下地の状態で傷み方が変わります。試験室の数字より、建っている家のほうが先に傷むと考えておくほうが安全です。塗り替え周期そのものの考え方は外壁塗装は何年ごとかのページに整理しました。

屋根は「プレミアム無機ルーフ」という別の製品です

ここは混同されやすいところです。これまで説明してきたエスケープレミアム無機とプレミアム無機マイルドは、外壁用です。屋根には別の製品があります。

製品種類
外壁エスケープレミアム無機水性
エスケープレミアム無機マイルド弱溶剤
屋根エスケープレミアム無機ルーフ二液弱溶剤形屋根用無機塗料
エスケープレミアム無機ルーフ遮熱同上+遮熱

メーカー自身が、外壁と屋根をセットにした考え方を示しています。

「今後は戸建住宅の外壁には『エスケープレミアム無機』・『エスケープレミアム無機マイルド』、屋根には『エスケープレミアム無機ルーフ』というプレミアム無機シリーズでの高耐候塗り替え仕様によって塗り替えサイクルの長期化、建物の保護性能の持続化が期待されます。」

——エスケー化研「二液弱溶剤形屋根用無機塗料『エスケープレミアム無機ルーフ』のご案内」(2023年5月22日)

「外壁だけ無機にして、屋根は前のまま」だと、次の塗り替え時期がそろいません。足場を組むのは1回なので、外壁と屋根の寿命をそろえるという考え方には理屈があります。ただしその分の金額は上がります。屋根まで含めた金額は屋根塗装の費用で確かめてください。

屋根には「塗れないことがある」という但し書きが付いています

外壁用の製品には無い、屋根用だけの注意書きです。製品仕様の用途欄に、こう添えられています。

「※薄型塗装瓦・スレート屋根の場合、基材自体の強度低下が著しく、塗装できない場合もありますのでご注意ください。」

——エスケー化研「エスケープレミアム無機ルーフ」製品情報・用途欄より

メーカーが「塗れないことがある」と書いています。屋根材そのものが弱っていれば、上から良い塗料を塗っても意味がない——ということです。

だから屋根は、塗料を決める前に「塗れる状態か」の判断が先に来ます。ここを飛ばして「無機で塗りましょう」と言ってくる提案には、「うちの屋根は塗れる状態ですか」と聞き返してください。状態によってはカバー工法や葺き替えのほうが筋が通ります。スレート屋根には、塗装できない製品も存在します。

適用できる屋根と、色数

項目公式の記載
一般名称二液弱溶剤形屋根用無機塗料
用途戸建て住宅・アパート・工場などの建築物の勾配屋根(彩色スレート瓦・金属屋根・トタン屋根)など
適用下地コロニアル・カラーベストなどの彩色スレート瓦/乾式洋瓦/セメント瓦(モニエル瓦など)/金属屋根(下塗りを選定することで適用可)
標準色△23色
つや艶有り、3分艶
荷姿15kgセット(主剤12.5kg・硬化剤2.5kg)/3.6kgセット(主剤3.0kg・硬化剤0.6kg)

色見本を探している方へ。屋根用の標準色は23色とメーカーが公表しています。外壁の色数とは別なので、外壁の色見本帳を見ても屋根の色は決まりません。屋根の色は、屋根用の色見本で見せてもらってください。屋根まで含めるといくらになるかは、何社かに同じ条件で出してもらうのがいちばん早いです。色の決め方そのものは外壁塗装の色と考え方が近いですが、屋根は上から見る面ではないので、道路から見上げたときの見え方で決まります。

※金額を調べている方へ。エスケー化研は製品ごとの設計価格表を公開しています。読み方はエスケー化研の設計価格にまとめました。ただし設計価格は「300平方メートル以上」を前提にした数字であることが多く、戸建ての単価としてはそのまま使えません。

遮熱タイプとの違いは「熱を反射するかどうか」

エスケープレミアム無機ルーフ遮熱は、無印に遮熱の機能を足したものです。メーカーの説明はこうです。

  • 特殊顔料により近赤外線(熱線)領域の波長の光線を反射し、吸収する熱量を減少させます——太陽光のうち熱を運ぶ波長をはね返す、という理屈です。
  • 汚れの付着による遮熱効果の低下を防ぎます——ここが無機である意味です。遮熱塗料は汚れると効果が落ちますが、低汚染性が高ければ遮熱性能が長く続くとメーカーは説明しています。

「遮熱は最初だけ」という話を聞いたことがある方は、この2つ目が答えです。遮熱の効き方そのものは遮熱塗料のページに、屋根の遮熱は屋根の遮熱塗装にまとめています。

遮熱にすると、いくら上がるのか。設計価格表に両方の行があるので、差が読めます。

製品屋根材100㎡300㎡以上
エスケープレミアム無機ルーフカラーベスト・スレート7,270円/㎡5,590円/㎡
金属屋根・トタン屋根7,030円/㎡5,410円/㎡
エスケープレミアム無機ルーフ遮熱カラーベスト・スレート7,870円/㎡6,050円/㎡
金属屋根・トタン屋根7,680円/㎡5,910円/㎡

エスケー化研「設計価格表2026年度版」より(2026年9月9日確認)。シーラー・プライマー込みの材工共価格で、下塗材はスレートがマイルドシーラーEPO系、金属屋根がSKマイルドボーセイ系。同じ屋根材でも下塗材の選択で数字が変わる行があります。

遮熱にすると600円/㎡ほど上がります(スレートで7,270→7,870/100㎡)。屋根の面積が60㎡なら3万6千円ほどの差です。効くかどうかは屋根の向きと下の部屋の使い方で変わるので、金額の差を見たうえで、「うちの屋根で遮熱は効きますか」と何社かに聞いてみてください。

「評判」に、答えられる範囲で答えます

この塗料を調べている方の多くが、「エスケープレミアム無機 評判」と検索しています。ところが、出てくるのは塗装店のページばかりで、実際に塗った家の声はほとんど見つかりません。理由があります。

「10年後どうだったか」を、まだ誰も持っていません

外壁の塗り替えは、次にやるまで10年以上あきます。つまり「もった/もたなかった」という本当の意味の評判は、塗ってから一巡してはじめて手に入ります。無機系はどのメーカーでも比較的あたらしい帯の製品で、その一巡を終えた実物がまだ少ない段階です。

メーカーが出している比較も、前の節で見たとおり促進耐候性試験(キセノンランプ法)——試験機の中の数字です。耐用年数の節に戻ると、何を測ったものかが書いてあります。

ですので、「この塗料は評判がいい」「あれは評判が悪い」と言い切っている記事を見たら、何を根拠にしているのかを先に探してください。耐久の評判を断言できる材料は、いまのところ誰の手元にもありません。当サイトも持っていません。

それでも答えるなら、性能ではなく「位置づけ」で答えます

当サイトの監修者は塗料の専門商社で営業をしていた人間で、この製品を売っていた側です。施工の実感ではなく、売り場から見た位置づけとしてなら、はっきり言えることがあります。

ひとことで言うと

「無機を塗りたい。でも、いちばん高いところまでは出せない」——そういう方に向いている製品です。

この塗料は、性能ランキングの一位として売られていた製品ではありません。無機という帯に入りながら、その帯のなかでは手の届く側に置かれていた——それがこの製品の売り文句でした。

誤解のないように付け足すと、無機そのものが上の帯です。次の節に書いたとおり、シリコンやラジカル制御形と比べれば段は上がります。ここで言っている「手が届く」は、無機同士で並べたときの話です。安い塗料をお探しなら、そもそも無機は候補になりません。

逆に言えば、「無機のなかでいちばん性能が高いものを」と探している方には、この製品を選ぶ理由がありません。選ぶ理由は「無機に手が届くこと」であって、頂点であることではないからです。ここを取り違えたまま高い金額を払うと、あとで「評判ほどではなかった」という感想になります。

悪い評判が立つとしたら、塗料ではなく工程のほうです

もうひとつ、売り場から見て言えることがあります。この塗料は、扱いに特別なクセがある製品ではありません。無印は水性・一液で、現場で混ぜる工程そのものがないからです。

気をつける先があるとすれば、マイルドのほうです。

  • マイルドは二液です主剤と硬化剤を、現場で計量して混ぜます。分量をきちんと測ること、しっかり撹拌すること——ここが雑だと、塗料が本来の性能に届きません。
  • それは塗料の評判ではなく、会社の評判です同じ製品を塗っても、工程を管理する会社とそうでない会社では結果が変わります。「マイルドの評判」を気にしている方は、塗料ではなく相手を見てください。

二液型そのものの考え方は塗料の種類のページに整理してあります。

評判の代わりに、確かめられること

口コミが手に入らない以上、見積書のほうが確かな材料になります。次の3つは、その場で確かめられます。

  • 下塗りの製品名が書いてあるか公式の備考が「下地の種類に応じ、適切な下塗材を選定してください」である以上、上塗りの名前だけの見積書は、いちばん大事なところを書いていません。
  • 無印かマイルドか、書き分けてあるか水性一液と弱溶剤二液は別物です。違いの節のとおり、どちらを使うかで現場の工程が変わります。
  • 「なぜ、うちに無機なのか」を説明できるか汚れ、立地、下地の動き。理由を挙げられる会社と、「いちばん良いやつです」で終わる会社がいます。

デメリットは3つあります

「エスケープレミアム無機 デメリット」で調べてこられた方へ。ここまでに出てきたものを、3つにまとめ直します。新しい話は足しません。どれも公式資料から出たものです。

デメリット中身どこに書いたか
①「無機」の名前から想像するものと違う無機100%ではありません。一般名称が「超低汚染ハイブリッド水性無機塗料」で、メーカー自身が有機樹脂の柔軟性を併せ持つと書いています「無機塗料」は、無機100%ではありません
②屋根用は「塗れないことがある」プレミアム無機ルーフの用途欄に「※薄型塗装瓦・スレート屋根の場合、基材自体の強度低下が著しく、塗装できない場合もあります」とメーカーが書いています。外壁用には無い但し書きです屋根は「プレミアム無機ルーフ」という別の製品です
③マイルドは二液。仕上がりが会社で変わる主剤と硬化剤を現場で計量して混ぜます。分量と撹拌が雑だと本来の性能に届きません。これは塗料の欠点ではなく、頼む相手の問題です「評判」に、答えられる範囲で答えます

よく挙がる「値段が高い」は、この製品固有のデメリットではありません。無機という帯そのものが上の価格帯だからです。むしろこの製品は、無機のなかでは手の届く側に置かれていました。そこを取り違えると「高い割に頂点ではない」という不満になります。

「塗膜が硬くて割れやすい」という説明も、よく見かけます。ただしこの製品については、メーカーが有機樹脂を混ぜている理由として柔軟性を挙げています。硬さの話は無機塗料一般の説明であって、この製品の仕様書から出た話ではありません。なぜ混ぜてあるのかに書いたとおりです。

設計価格は公開されています——しかも「100㎡」の列があります

「この塗料はいくらですか」に、メーカーの数字で答えられます。エスケー化研は設計価格表をPDFで公開しています(2026年度版)。「エスケープレミアム無機シリーズ」は1ページにまとまっていて、価格の欄が100㎡と300㎡以上の2列に分かれています。

戸建ての外壁は120㎡前後です。300㎡を基準にした数字より、100㎡の列のほうが自分の家に近い。その2つが並んでいるので、面積で単価がどう動くかまで読めます。

製品下地下塗材100㎡300㎡以上
エスケープレミアム無機
(水性・一液)
窯業系サイディングエスケーハイブリッドシーラーEPO6,280円/㎡4,830円/㎡
水性ハイブリッドシーラー6,330円/㎡4,870円/㎡
水性SDサーフエポプレミアム6,990円/㎡5,380円/㎡
マイルドSDサーフエポプレミアム7,380円/㎡5,680円/㎡
エスケープレミアム無機マイルド
(弱溶剤・二液)
窯業系サイディングエスケーハイブリッドシーラーEPO6,510円/㎡5,010円/㎡
水性ハイブリッドシーラー6,570円/㎡5,050円/㎡
水性SDサーフエポプレミアム7,230円/㎡5,560円/㎡
マイルドSDサーフエポプレミアム7,620円/㎡5,860円/㎡
鉄部SKマイルドボーセイ6,880円/㎡5,290円/㎡

エスケー化研「設計価格表2026年度版」より、2026年9月9日に確認。掲載の数字はすべて「シーラー、プライマー込み価格」です。コンクリート・モルタル下地の行(薄付け/厚付け)や屋根用の行もありますが、ここでは戸建てで多い窯業系サイディングと鉄部を抜きました。

ここから3つ読めます。

①面積が小さいほど、㎡単価は上がります。同じ製品・同じ下塗りで、100㎡と300㎡以上のあいだに1,400〜1,700円/㎡の差があります。戸建ては小さいほうなので、「設計価格◯円だから見積もりも◯円のはず」という当てはめは成り立ちません。相場記事が引く数字はたいてい300㎡以上のほうです。

②下塗りが何かで、1,100円/㎡変わります。同じエスケープレミアム無機・同じ窯業系サイディングでも、エスケーハイブリッドシーラーEPOなら6,280円、マイルドSDサーフエポプレミアムなら7,380円(100㎡)。上塗りの名前が同じでも、金額は下塗りで動くということです。見積書に下塗りの製品名が書かれていない会社は、この差を説明できません。

③マイルドは無印より、わずかに高い。同じ下塗りで比べると230〜240円/㎡の差です(6,280→6,510、6,330→6,570)。前の章で書いたとおりグレードの上下ではありませんが、価格は同じではありません。この程度の差なので、「マイルドだから高く取られている」という読み方は当たりません。

そして必ず添えておくべき但し書きがあります。設計価格表の注意事項にはこうあります。

設計価格は新築下地で同一淡彩色300m²以上を(特に指定がない場合)基準とする材工共の価格です。/設計価格には法定福利費、消費税は含まれておりません。

「材工共」は材料と手間のことです。足場、高圧洗浄、下地補修、養生、付帯部、諸経費は入っていません。だから見積書の㎡単価とこの数字は、そのままでは比べられません。使いみちは金額の答え合わせではなく、製品どうしの序列と、面積・下塗りで動く幅を知ることです。

他社が同じ「材工共」で公表している価格と並べた一覧は塗料の平米単価のページにあります。見積書の読み方そのものは見積書の内訳のページへ。同じ条件で何社かに出してもらうと、下塗りの選び方まで含めて比べられます。

無機にすべきかどうかの決め方

グレードを上げるかどうかは、塗料の比較からではなく「この家に、あと何年住むか」から入ると噛み合います。

価格の上がり方が、なだらかではないからです。シリコンからラジカル制御形まではひと続きの帯ですが、フッ素になると段が一つ上がり、無機はさらに上がります。20年住むのか、10年で手放すのか、次の塗り替えを自分がやるのか。そこが決まれば、上乗せに意味があるかどうかは自分で判断できます。

そのうえで、無機を検討する価値が高いのは次のような場合です。

  • 汚れが実際に困っているこの製品の主戦場は超低汚染です。前回の塗装で汚れに悩んだ実感があるなら、払う理由がはっきりしています。
  • 足場を組む回数を減らしたい費用の主因は足場です。塗り替えの回数が減れば足場の回数も減ります。内訳の考え方は見積書の内訳のページへ。
  • 長く住むと決まっている次の塗り替えを自分が払う前提なら、1回あたりではなく総額で比べられます。

逆に、あと10年前後で手放す可能性があるなら、ラジカル制御形で足りる場面が多いはずです。その代表格についてはパーフェクトトップのページに書きました。グレードそのものの整理は塗料の種類のページです。

よくある質問

エスケープレミアム無機の評判は、実際どうなのですか?

耐久の評判は、まだ誰も持っていません。塗り替えは10年以上あくので、無機系の実際の成績はこれから出てくる段階だからです。そのうえで位置づけで答えるなら、「無機を塗りたいが、いちばん高いところまでは出せない」という方に向いた製品——これが売り場から見たこの塗料の性格です。性能の頂点として売られていた製品ではありません。詳しくは「評判」に答えられる範囲で答えますをご覧ください。

無機だとひび割れませんか?

「硬い=割れる」という心配は理屈としては正しいのですが、この製品については公式が「有機樹脂の柔軟性を併せ持った塗膜」「弾性の下塗りとの組み合わせにも使える」と明記しています。柔らかさは設計に入っています。ただし、下地に大きな動きがある壁では、上塗りの種類より下地処理と下塗りの選定のほうが結果を左右します。

施工単価はいくらですか?

メーカーの設計価格なら分かります。窯業系サイディングで100㎡なら6,280〜7,380円/㎡、300㎡以上なら4,830〜5,680円/㎡(下塗材によって幅があります。シーラー・プライマー込み・材工共・2026年度版)。設計価格の章に表を置きました。ただし材工共は材料と手間だけで、足場・洗浄・下地補修・養生・付帯部・諸経費は含まれていません。見積書のほとんどはそちらなので、この数字が総額の目安になるわけではありません。読み方は見積書の内訳のページ、金額の帯は費用シミュレーターで確認してください。

色は選べますか?

公式の色目は「各色」で、SR色の色見本が掲載されています。数えると無印が44色、マイルドが49色です(2026年9月9日確認)。濃い色ほど価格が上がるのは塗料の一般的な仕組みなので、色を決めてから金額を確認する順番が安全です。色のページもあわせてどうぞ。

下塗りは何を使うのですか?

公式の備考に「下地の種類に応じ、適切な下塗材を選定してください」とあります。上塗りが同じでも下塗りが違えば結果は変わるので、見積書に下塗りの製品名まで書かれているかを見てください。書いてあるだけで、工程を管理する習慣がある会社だと分かります。

他社の無機塗料とは、どう比べればいいですか?

各社が同じ帯の製品を持っています。比べるときは、①水性か弱溶剤か ②一液か二液か ③つやの選択肢 ④公式が何と比較して「超える」と言っているか——この4点をそろえると、名前が違っても比較になります。

最終確認日:2026年8月22日。製品仕様・ラインアップは変更されることがあります。実際の適用可否と最新の仕様は、メーカー公式サイトおよび施工店にご確認ください。

あわせて読みたい

他メーカーの無機と比べる

公式仕様で比べると、弾性下地・工程・価格の公開が違います

ガイナのデメリット

厚く塗るほど効く。ただし一度に厚塗りすると割れる

エスケープレミアムシリコン

設計価格と期待耐用年数を製品ページに出している塗料

パーフェクトトップ

なぜ、どの見積書にもこれが出てくるのか

塗料の種類とグレード

「ラジカル」はグレードではありません

水性と油性の違い

変わるのは「もち」ではなく「塗れる場所」

コケ・カビ

汚れの原因が生き物のときの話

外壁塗装は何年ごと?

そもそも何年もつのが普通なのか

見積書の内訳

費用の主因は足場です

参考にした情報

  • エスケー化研 公式サイト 製品情報「エスケープレミアム無機」(一般名称=超低汚染ハイブリッド水性無機塗料、水性・一液・無機系・ラジカル制御・超低汚染性・防かび防藻性、つや3段階、荷姿、標準塗坪、F☆☆☆☆、用途、備考の下塗材に関する記載、「柔軟性」および「ハンドリング性」「環境対応」の各項目)
  • エスケー化研 公式サイト 製品情報「エスケープレミアム無機マイルド」(一般名称=超低汚染ハイブリッド二液弱溶剤形無機塗料、二液・弱溶剤、希釈=塗料用シンナーA、つや4段階、荷姿、用途、「弱溶剤で構成されているため、旧塗膜の種類を問わず、優れた密着性、下地適用性を示します」の記載)
  • エスケー化研 公式サイト「エスケープレミアム無機シリーズ」特集ページ(無機ハイブリッド技術、ラジカルコントロール技術、超低汚染性の3要素=親水性・低帯電性・高い架橋密度、塗り替えサイクルの目安とその注記、促進耐候性試験=キセノンランプ法の明記、同社の創業年と沿革)
  • エスケー化研 公式サイト「無機塗料|Premium Reform」(無機系超耐候性樹脂の説明、無機成分の剛性と有機樹脂の柔軟性を併せ持つという記載)
  • エスケー化研「設計価格表2026年度版」PDF(エスケープレミアム無機シリーズのページ=100㎡と300㎡以上の設計価格、下塗材別の行、シーラー・プライマー込み価格の表示、屋根用ルーフ/ルーフ遮熱の行。注意事項=新築下地で同一淡彩色300㎡以上を基準とする材工共の価格である旨、法定福利費と消費税を含まない旨)
  • エスケー化研 公式サイト 製品情報のSR色一覧(掲載色数=エスケープレミアム無機44色/エスケープレミアム無機マイルド49色。2026年9月9日に数えたもの)
  • 塗り替えサイクルや耐候性の比較は、いずれも公式が試験方法名(キセノンランプ法)と「目安」である旨を明記したうえで示しているものです。当サイトは具体的な耐用年数を断定していません。本文に載せた「30年で2回/3回」「5,000時間で約91%」などの数値は、公式サイトに掲載されている図から当サイトが読み取ったもので、メーカーが数字として明記しているものではありません

最終確認日:2026年9月9日(設計価格・掲載色数・図の読み取り)/2026年8月22日(初回調査)。設計価格は改定される場合があります。