外壁塗装のDIY——おすすめしません。理由は「高さ」と「仕上がり」の2つです

先に結論を書きます。家の外壁を自分で塗ることを、ぬりごろはおすすめしていません。ぬりごろは塗装工事を売っていないので、あなたに工事を頼ませたい理由はありません。それでも止めるのは、理由が2つあるからです。ひとつは高さ——落ちたときに取り返しがつきません。もうひとつは仕上がり——プロ用の塗料を扱っていた実務者ですら「綺麗に塗れなかった」と言う世界です。順番に、根拠を出します。そのうえで、それでもやるなら守ってほしい線も最後に書きます。

このページの内容

理由①「高さ」——転落事故のデータが示すこと

まず、取り返しのつかないほうから。消費者庁が公表している脚立・はしごの転落事故の資料を見てください。

消費者庁の公表資料より

寄せられた転落事故の情報は437件。うち「中等症」「重症」が6割を占め、「死亡」も8件発生しています。年代別では50歳代以上が全体の7割強。事故の発生時の状況は「庭木の剪定」が最も多く、次いで「屋根の修繕」などで、5割以上が屋外での作業中に起きています。

ここで注目してほしいのは、原因の内訳です。製品が壊れて落ちた事故はごくわずか(13件)で、大半はバランスを崩した(51件)・踏み外した(40件)・設置が悪かった(31件)。つまり「気をつけていれば大丈夫」の"気をつけ"が効かない類の事故だということです。

そして、高さの実感がずれていることを示す実例があります。同じ資料に載っている事故です。

「約2m」から落ちると、どうなるか

自宅ガレージの掃除中にはしごが滑り、約2m下のコンクリートに転落。頭部と左手関節を打撲し、前頭骨骨折、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血、脳挫傷等の診断により入院(50歳代・男性)。
——2mは「ちょっと上」ではありません。落ちる先がコンクリートなら、なおさらです。

製品評価技術基盤機構(NITE)も繰り返し注意喚起していて、要点は2つです。「はしごの上で作業しない」「脚立の天板には乗らない・座らない・またがらない」。庭木の剪定でも屋根でも、落ちた人の多くはこの2つのどちらかをしています。

プロが2mから装備を変える理由

ここで、プロの現場のルールを知っておくと判断が早くなります。労働安全衛生法令では、高さ2m以上の場所で作業する場合、事業者に墜落防止の措置が義務づけられています。原則は作業床(足場)を設けること、それが難しい場合は墜落制止用器具を使わせること。

つまり、こういうことです。

  • プロは「上手いから足場なしで登れる」のではありません職人が慣れているかどうかに関係なく、2mを超えたら装備を用意しなければならないと法令が決めている。足場代が見積書のいちばん大きなブロックのひとつになるのは、そのためです(足場代のページ)。
  • DIYには、その義務も装備もありません個人が自宅で行う作業に労働安全衛生法は直接かかりません。規制がない=安全、ではなく、守ってくれるものが何もないという意味です。同じ高さで、プロは足場の上、あなたははしごの上。差は腕ではなく、足元にあります。

理由②「仕上がり」——板一枚が、綺麗に塗れない

もうひとつの理由は、身も蓋もない話です。塗るのは、思っているより難しい。動画で見ると簡単そうに見えるのは、上手い人がやっているからです。

ぬりごろが取材している実務者に、塗料販売の現場でプロ向けの商品を扱っていた方がいます。その人の言葉です。

取材で返ってきた言葉、そのままです

「素人が見様見真似でやっても、案外うまく塗れませんよ。私、仕事で"塗り板"を作っていましたけど、綺麗に塗れなかったですから」——塗り板というのは、色や仕上がりを見せるための見本の板のことです。平らな板を、室内で、プロ用の塗料と道具を使って塗る。外壁塗装でいちばん条件のいい状態です。それでも、売り物になる面は簡単には作れなかった、と。

ここが「手順を教える系」の記事が触れないところです。手順は書けます。道具のリストも作れます。でも、ローラーの目が残らないように塗る、ムラなく同じ厚みで塗る、乾き際に触らない——このあたりは知識ではなく手の話で、読んで身につくものではありません。壁は板と違って広く、しかも凹凸があり、日が当たれば乾きも変わります。

加えて、素人には見極めのしようがない要素があります。いまの壁に何が塗ってあるか、その外壁材が普通の塗料で密着するのか難付着サイディングのように専用の下塗りでないと剥がれる外壁モニエル瓦のように下地処理を外すと確実に剥がれる屋根材が実在し、前回の塗料との相性で塗膜がシワになることもあります(水性と油性のページ)。プロが上手いのは、塗る手つきだけでなく、この見極めのほうです。

そしてもうひとつ、時間。塗料には「塗り重ね乾燥時間」が決まっていて、日本ペイントの用語解説は、これを守らないと乾燥や塗膜の外観の不良・欠陥(しわ、割れ、膨れ等)が生じるおそれが高まると説明しています。休みの日にまとめて終わらせようとすると、ここが真っ先に犠牲になります。DIYに本当に必要なのは、技術より日程です。

まとめると——落ちる危険を避けて低いところだけ塗ったとしても、仕上がりが期待どおりになるとは限らない。これが、おすすめしない2つ目の理由です。

それでもやるなら——この線から先に行かない

そう言われてもやってみたい、という方はいると思います。止められる筋合いでもありません。ただし線だけは引いてください。基準は「地面に立ったまま手が届くか」です。

範囲具体例ぬりごろの見方
◯ 現実的にやれるブロック塀・門扉・物置・自転車置き場・犬走り・1階の腰から下の壁地面に立って届くので、落ちる高さがありません。ただし塀は塗料選びで膨れるなど、素材ごとの注意はあります
△ 条件つき雨戸・戸袋・低い位置の付帯部(軒天・破風などは高さ次第)脚立を使うなら、平らで安定した地面/天板に乗らない・またがらない/一人でやらない。この3つを守れないなら、やめる側です
✕ やめたほうがいい2階の壁・屋根・はしごを掛ける作業・高所での高圧洗浄上のデータの領域です。高圧洗浄機は水の反力で体が押されます——不安定な足場の上で使う道具ではありません(高圧洗浄のページ

この範囲でやるなら、最後にひとつだけ。缶の裏の指示(適用下地・希釈・塗り重ね乾燥時間)を、面倒でも全部読んでください。読み飛ばす人には向きません。

そして気づいた方もいると思います。◯の範囲は、外壁塗装の見積もりのうち、金額としてはごく一部です。これが次の話につながります。

DIYで浮くお金の正体は、足場代と人件費

DIYの動機は、ほぼ「見積もりが高かったから」です。では、自分でやると何が浮くのか。分解すると、はっきりします。

  • 材料費は、ほとんど変わりません——同じ面積を塗るのに必要な塗料の量は同じです。むしろプロ用の大容量より、小分けのDIY用のほうが単価は高くつくこともあります
  • 浮くのは、人件費と足場代——見積書の中でも大きい2つです。内訳の読み方は見積もりの内訳のページにあります

ここが、このページでいちばん伝えたいところです。足場代を浮かせるということは、足場なしで高い場所の作業をするということ。つまりDIYで浮く金額の大きな部分は、技術料の節約ではなく「危険を自分で引き受けた対価」です。

だから判断はシンプルになります。足場が要らない範囲(◯の範囲)でやるなら、DIYは合理的。足場が要る範囲まで自分でやろうとした瞬間に、浮いた金額の意味が変わります。

隣の家に飛ばしたら、払うのは自分です

もうひとつ、DIY記事があまり書かない話をします。塗料は飛びます。ローラーでも霧のように飛散しますし、風のある日ならなおさらです。隣家の車のボンネットに細かい粒が付いた——これは養生と飛散のページで扱ったとおり、実際に起きているトラブルです。

業者に頼んだ場合、こうした事故に備えて工事中の事故に対応する保険に入っている会社が一般的で、加入の有無は聞けば分かります(業者選びのページの「自分で確かめられること」)。

DIYには、それがありません。近隣に被害を出したときの対応も費用も、すべて自分で引き受けることになります。ご自身の火災保険などに付帯する個人賠償責任保険が使えるかどうかは契約内容によるので、ここでは断定しません。ただ、「塗ってしまったあとに調べる」では遅いということだけは確かです。やるなら、車を移動してもらう・洗濯物の日を伝える・風の強い日はやらない——プロと同じ気配りが要ります。

途中で「無理だ」と思ったとき

洗って、養生して、下塗りまでやってみて——そこで「これは全部は無理だ」と気づくことがあります。それは失敗ではなく、やってみないと分からなかったことが分かったということです。

ただし、正直に書いておきます。途中まで自分で塗った壁は、あとから頼むときに"下地がひとつ増えた壁"になります。何をどこまで塗ったのか(製品名・回数・範囲)をメモしておいてください。それを伝えられるかどうかで、業者の判断の精度が変わります。隠すと、次の塗膜が剥がれる原因になります。

見積もりは無料で出す会社が多く、取ったからといって契約する義務はありません。DIYで行くか頼むかは、金額と範囲を両方見てから決めれば十分です。

よくある質問

1階だけ自分で塗って、2階だけ業者に頼めますか?

頼めますが、思ったほど安くなりません。2階を塗るには結局足場が要り、足場は1面だけ組むより建物一周で組むのが基本だからです。足場が立つなら、そのついでに1階も塗ってもらったほうが単価は下がります。この構造は「外壁と屋根を同時にやると得」の正体と同じです。

高圧洗浄機は買ったほうがいいですか?

塀や犬走りの掃除には役に立ちます。ただし、家庭用の機械では業者の洗浄の代わりにはなりませんし、金属サイディングのように高圧洗浄機の使用をメーカーが禁じている外壁材もあります。何より、高所で使う道具ではありません(水の反力でバランスを崩します)。

余った塗料はどう捨てればいいですか?

液体のまま流しや側溝に流してはいけません。処分の方法(新聞紙などに吸わせて固める、缶は中身を空にしてから、など)は自治体でルールが違うので、お住まいの市のごみ分別の案内を確認してください。買う前に「余ったらどう捨てるか」を調べておくと、量の見積もりも慎重になります。

賃貸やマンションでも塗れますか?

賃貸は原状回復の対象になるので、勝手に塗るのは避けてください。分譲マンションの外壁・バルコニーは共用部分にあたることが多く、管理規約の制限があります。まず管理組合に確認を。

結局、DIYはやめたほうがいいということですか?

家の外壁については、やめたほうがいいと考えています。高さの危険が現実のものであること、そして仕上がりが期待どおりにならない可能性が高いこと——このページで挙げた2つの理由は、気合いや丁寧さで埋まる種類の差ではありません。塗料販売の現場でプロ用の商品を扱っていた人が「板一枚も綺麗に塗れなかった」と言う世界です。
そのうえで、塀・物置・門扉のように、地面に立って届いて、失敗しても取り返しがつく場所まで止めるつもりはありません。自分で塗ってみると、見積書に並ぶ工程の意味が実感として分かるようにもなります。線引きだけは守ってください。

最終確認日:2026年8月21日。事故データは消費者庁・製品評価技術基盤機構(NITE)の公表資料によります。作業の可否や安全対策は、ご自身の住宅の条件に応じてご判断ください。

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参考にした情報

  • 消費者庁「脚立・はしごからの転落に注意!~庭木の剪定、屋根修理で、死亡事故の危険も~」(平成26年12月22日公表)
  • 製品評価技術基盤機構(NITE)「事故の約4割が60代以上!『はしごの上で作業しない』『脚立にまたがらない』」(2022年)
  • 厚生労働省 労働安全衛生法令における墜落防止措置に関する資料(高さ2m以上の作業における作業床・墜落制止用器具)
  • 日本ペイント「塗り重ね乾燥時間」(用語解説)