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外壁塗装は足場なしでできる?
「足場代が高いから、足場なしでやってもらえないか」——そう考える方は少なくありません。実際、足場代は見積書のなかで大きな金額を占めます。ところが調べていくと、この問いには法律のほうに先に答えが書かれています。労働安全衛生規則は、高さ2メートル以上の場所で働かせるときは「足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない」と定めています。つまり足場なしは「安く済ませる選択肢」ではなく、法律上の例外です。では、隣の家が近くて物理的に組めない家はどうなるのか。条文にあたって整理しました。
このページの内容
- 🔑結論——2メートルを超えたら「作業床を設ける」のが原則です
- 🔑足場の寸法は、法律で決まっています
- 「無足場工法」の正体は、ロープ高所作業です
- 足場が組めないと言われる4つのパターン
- 🔑🔑隣の敷地を使わないと組めないとき
- 「足場なしでやります」と言われたら
- 組みにくい家は、金額がどう動くか
- よくある質問
- 参考にした情報
結論——2メートルを超えたら「作業床を設ける」のが原則です
外壁塗装で足場が必要かどうかは、業界の慣習ではなく法律で決まっています。労働安全衛生規則の第518条には、こう書かれています。
事業者は、高さが二メートル以上の箇所(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
読み方の要点は2つです。
ひとつめ。「2メートル以上」が基準です。2階建ての住宅で外壁を塗るなら、ほぼ全面がこの高さを超えます。平屋でも軒の高さは2メートルを超えるのが普通です。つまり戸建ての外壁塗装は、原則として作業床が必要な工事です。
ふたつめ。作業床を設けるのが「原則」で、それが困難なときに代替措置があるという順番です。第2項は「作業床を設けることが困難なとき」に限って、防網や墜落制止用器具といった別の方法を認めています。安く済ませたいからという理由は、ここに入りません。
ここを押さえておくと、業者の説明が正しいかどうかを自分で判断できます。「足場は要りません」と言われたとき、聞くべきなのは値段ではなく「では作業床の代わりに何をするのか」です。答えが出てこないなら、それは法律の話をしていないということになります。
なお、この規定は事業者(会社)が労働者を働かせるときのルールです。自分の家を自分で塗る場合には直接適用されません。ただし危険がなくなるわけではないので、そちらは外壁塗装のDIYのページにまとめています。プロが2メートルを境に装備を変えるのは、そこが実際に人が落ちて死ぬ高さだからです。
足場の寸法は、法律で決まっています
「足場を組むのに何センチの隙間が要るのか」という質問はよく出ます。これも規則に数字が書かれています。第563条(作業床)です。
つり足場の場合を除き、幅、床材間の隙間及び床材と建地との隙間は、次に定めるところによること。
イ 幅は、四十センチメートル以上とすること。
ロ 床材間の隙間は、三センチメートル以下とすること。
ハ 床材と建地との隙間は、十二センチメートル未満とすること。
つまり人が乗る板の幅だけで40センチ以上が要ります。これに支柱(建地)の太さ、建物との間に空ける作業スペースが加わります。「隣の家との隙間が30センチしかない」という家では、法令どおりの作業床を設けることが難しくなる——数字で見ると、そういうことです。
同じ条文には、墜落防止の設備についても定めがあります。わく組足場なら交さ筋かいと高さ15センチ以上40センチ以下の桟、または高さ15センチ以上の幅木、あるいは手すりわく。それ以外の足場なら手すり等と中桟等。さらに物が落ちて人に当たるおそれがあるときは、高さ10センチ以上の幅木、メッシュシートまたは防網を設けることとされています。
外壁塗装の現場で足場に張られている、あの黒いネット。あれは見た目のためではなく、塗料の飛散と落下物を防ぐための設備で、条文にも根拠があります。見積書に「飛散防止ネット」が別行で出ていることがありますが、それはやらなくてもいい追加ではありません。見積書の読み方は見積書の見方のページで詳しく扱っています。
寸法の話が効いてくるのは、業者から「この家は足場が組みにくい」と言われたときです。どこが何センチ足りないのかを聞いてください。数字で説明できる業者なら、法令を理解して見積もっています。「なんとなく狭いので」で終わる相手には、もう一社の意見を並べる価値があります。同じ家を何社かに見てもらうと、組める・組めないの判断そのものが分かれることがあります。
「無足場工法」の正体は、ロープ高所作業です
検索すると「無足場工法」という言葉が出てきます。これは法律の外にある裏技ではありません。ロープ高所作業として、労働安全衛生規則に節がまるごと設けられています。ビルの窓拭きで見かける、屋上からロープで下りてくるあの作業と同じ枠組みです。
条文で定められている主なものを挙げます。
- ①ライフラインの設置(第539条の2)——身体を保持するメインロープとは別に、墜落制止用器具を取り付けるためのロープ(ライフライン)を設けなければならない。
- ②支持物(第539条の3)——メインロープとライフラインは作業箇所の上方にある堅固な支持物に緊結する。しかもそれぞれ異なる支持物に、外れないよう確実に緊結すること。
- ③切断防止——突起物などロープが切れるおそれのある箇所には覆いを設けるなどの措置を講じること。
- ④墜落制止用器具(第539条の7)——作業者に要求性能墜落制止用器具を使用させ、それをライフラインに取り付けること。
②が現実的な分かれ目になります。ロープを結べる堅固な支持物が、作業箇所の上に2つ必要だということです。一般的な木造2階建てで、そこまでの支持物が屋上に取れるかどうか。マンションやビルで使われる工法が、そのまま戸建てに使えるとは限らないのはこのためです。
もうひとつ、仕上がりの問題もあります。ロープで吊られた状態は、足場の上に立った状態と比べて体が安定しません。塗装は同じ力で同じ厚みに塗り重ねる作業なので、体勢が安定しない条件は不利に働きます。下地の状態を近くで確かめながら進める作業も、やりにくくなります。
だから、無足場工法を検討する場面は限られます。「足場が組めないほど条件が悪い家で、それでも塗る必要があるとき」の手段であって、「足場代を浮かせたい人のための安いプラン」ではありません。提案されたときは、なぜこの家で足場ではなくロープなのか、その理由を聞いてください。
足場が組めないと言われる4つのパターン
実際に「組みにくい」と言われるのは、だいたい次のどれかです。それぞれ、その先の話が違います。
| パターン | 何が起きているか | 次にすること |
|---|---|---|
| ①隣家が近い | 境界までの距離が足りず、法令どおりの作業床の幅が取れない | 隣地を使わせてもらえるか(後述) |
| ②敷地が狭い・境界いっぱいに建っている | 自分の敷地内に足場を立てる余地がない | どの面が何センチ足りないのかを数字で聞く |
| ③カーポート・物置・室外機がある | 撤去や一時移動が必要。費用と手間が発生する | 移動できるものか、見積もりに含まれるかを確認 |
| ④斜面・段差・擁壁がある | 足場の脚を水平に置けない。特殊な組み方が要る | どう組むのか、追加費用がいくらかを見積書で確認 |
ここで大事なのは、①〜④はどれも「塗れない」という意味ではないということです。「そのままでは組めない」だけで、条件を動かせば組めることが多いのが実際のところです。カーポートは一時的に外せることがありますし、室外機は動かせます。斜面には斜面用の組み方があります。
問題は、その手間をどこまでやってくれるかが会社によって違うことです。手間を嫌って「うちでは無理です」と言う会社もあれば、追加費用を出して段取りを組む会社もあります。1社に断られただけで「うちは塗れない家なんだ」と思い込まないでください。複数の会社に現地を見てもらうと、判断が割れることがあります。とくに③と④は、経験の差がそのまま可否の差になります。
隣の敷地を使わないと組めないとき
いちばん多いのが①です。自分の敷地だけでは足場が立たず、隣の家の敷地に少し入らせてもらう必要があるケース。これについては、2023年4月に施行された改正民法に規定があります。
土地の所有者は、次に掲げる目的のため必要な範囲内で、隣地を使用することができる。ただし、住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない。
一 境界又はその付近における障壁、建物その他の工作物の築造、収去又は修繕
(中略)
2 前項の場合には、使用の日時、場所及び方法は、隣地の所有者及び隣地を現に使用している者のために損害が最も少ないものを選ばなければならない。
3 第一項の規定により隣地を使用する者は、あらかじめ、その目的、日時、場所及び方法を隣地の所有者及び隣地使用者に通知しなければならない。ただし、あらかじめ通知することが困難なときは、使用を開始した後、遅滞なく、通知することをもって足りる。
4 第一項の場合において、隣地の所有者又は隣地使用者が損害を受けたときは、その償金を請求することができる。
整理します。
外壁の修繕は、条文の「建物その他の工作物の修繕」に当たります。そのために必要な範囲で、隣地を使用することができる——と書かれています。ここは、改正前は「隣人に請求できる」という書き方だったものが、「使用することができる」と明確化された部分です。
ただし、ただし書きが重要です。「住家については、その居住者の承諾がなければ、立ち入ることはできない」。隣の家の建物の中に入るには承諾が要ります。庭や通路といった敷地の使用と、住家への立ち入りは別扱いです。
そして第3項の通知義務。あらかじめ目的・日時・場所・方法を伝えなければなりません。「足場を組みます」だけでは足りず、いつからいつまで、どの範囲に、どういう形で入るのかを伝える必要があります。第2項は「損害が最も少ない方法を選べ」とも定めています。
もっとも、実務では条文を持ち出す前にやることがあります。近所づきあいは工事のあとも続きます。法律上は使用できるとしても、事前に頭を下げて了解をもらっておくのと、権利を主張して押し切るのとでは、そのあとの何十年かが変わります。
現実的な進め方は、こうなります。
- ①見積もりの段階で業者に確認する——「隣地に入る必要がありますか。どの範囲に、何日間ですか」。図面や写真で示してもらいます。
- ②誰が挨拶に行くかを決める——業者が回るのが一般的ですが、施主も一緒に行くほうが話が早いことが多いです。近隣挨拶の実務は近隣挨拶のページにまとめています。
- ③日時・範囲・方法を伝える——条文が求めているのはこの3点です。口頭でも構いませんが、書面が残ると後の行き違いを防げます。
- ④断られたら、代替案を業者と考える——その面だけロープ作業にする、隣地に入らない組み方に変える、といった方法が検討できます。
④の段階まで来たら、業者の力量が問われます。「隣が了解しないなら塗れません」で終わる会社と、別の組み方を出してくる会社があります。この状況こそ、複数社に相談する価値がある場面です。同じ条件を伝えて、どんな案が返ってくるかを比べてみてください。提案の中身に、その会社の経験がそのまま出ます。
なお、隣地を使わせてもらったことで相手に実害が出た場合は、第4項のとおり償金の請求ができるとされています。植木を傷めた、駐車できない日があった、といったケースです。そうならないよう養生と段取りを丁寧にやってもらうのが、結局いちばん安く済みます。
「足場なしでやります」と言われたら
ここまでを踏まえると、確認すべきことははっきりしています。足場を使わないと言われたとき、聞くのは値段ではなく方法です。
- ①作業床の代わりに何を使うのか——ロープ高所作業なのか、脚立や梯子で届く範囲だけなのか。
- ②ロープなら、支持物はどこに取るのか——メインロープとライフラインを、それぞれ別の堅固な支持物に取る必要があります。
- ③2階部分をどう塗るのか——梯子に乗ったまま塗るのは、体勢が安定せず塗膜の厚みが揃いにくくなります。
- ④仕上がりの保証はどうなるのか——工法が変われば、保証の条件も変わることがあります。
もうひとつ、混同されやすいものがあります。「足場代無料」という広告です。これは足場を使わないという意味ではなく、足場代を別の項目に含めて表示しているケースがほとんどです。中身は足場代のページで詳しく扱っています。「足場なし」と「足場代無料」は、まったく別の話です。
判断に迷ったら、足場を組む前提の見積書と、足場を使わない前提の見積書を、両方出してもらうのが確実です。金額だけでなく、工程と保証がどう変わるかが見えます。別の会社にも同じ条件で見積もりを頼んでおくと、その提案が普通なのか特殊なのかが分かります。1社の言い分だけでは、そこが判断できません。
組みにくい家は、金額がどう動くか
正直に書きます。「狭い家はいくら高くなる」という公表された基準は、どこにもありません。足場の単価は会社ごとに違い、現場の条件で変わるものだからです。ですから、ここで具体的な割増率を示すことはできません。
代わりに、金額が動く理由を挙げます。これが分かれば、見積書の数字が妥当かどうかを自分で聞けるようになります。
| 条件 | なぜ金額が動くか |
|---|---|
| 間口が狭く搬入しにくい | 資材を人力で運ぶ距離が伸びる。トラックを停める場所が遠い |
| 特殊な組み方が必要 | 斜面・段差・張り出しに対応する部材と手間が増える |
| カーポート等の一時撤去 | 外す・戻すの作業が別に発生する |
| 隣地の使用 | 養生の範囲が広がる。作業できる時間帯が制限されることがある |
| ロープ高所作業 | 資格を持つ作業者が必要。1日に進む面積が足場より少ないことがある |
見積書を受け取ったら、足場の項目に数量(㎡)と単価が入っているかを見てください。数量が出ていれば、条件による割増がどこに乗っているのかを聞けます。「足場一式」とだけ書かれているなら、内訳を聞く価値があります。見積書のどこを見るかは見積書の見方のページに整理しました。
そして、条件が悪い家ほど会社による金額差が開きます。標準的な家なら各社の見積もりは似た数字になりますが、手間のかかる家では「その手間をいくらと見るか」の判断が分かれるからです。組みにくい家こそ、複数社に見てもらう価値が大きいということになります。まず何社かの見積もりを並べてみてください。同じ家に対して、判断も金額もばらつくのが普通です。
よくある質問
Q. 平屋なら足場は要りませんか。
A. 平屋でも軒の高さは2メートルを超えるのが一般的です。第518条の基準は建物の階数ではなく作業する高さなので、平屋だから不要ということにはなりません。平屋の費用は平屋の外壁塗装のページにまとめています。
Q. 1面だけ塗るときも足場は要りますか。
A. その面の作業高さが2メートルを超えるなら、考え方は同じです。ただし塗る範囲が狭くても足場を組む手間はあまり減らないため、面積のわりに足場代の比率が高くなります。部分塗装の考え方は一部だけの塗装のページにあります。
Q. 足場は何日くらい建っていますか。
A. 組立と解体はそれぞれ半日から1日程度が目安ですが、その間ずっと建ったままになります。工事全体の流れは工程と工期のページで扱っています。
Q. 足場があると防犯が心配です。
A. よく出る不安です。夜間は1階部分の昇降階段を外す・施錠するといった対応をしている会社があります。契約前に「夜間はどうしますか」と聞いてください。対応の有無より、質問への答え方に会社の姿勢が出ます。
Q. 足場を組んだ跡が残ることはありますか。
A. 脚を置いた部分に跡が残ることがあります。組む前に、置く場所を一緒に確認しておくと防げます。完成後の確認は完了検査のページにまとめました。
参考にした情報
- 労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第518条(作業床の設置等)、第519条、第563条(作業床)、第539条の2(ライフラインの設置)、第539条の3(メインロープ等の強度等)、第539条の7(要求性能墜落制止用器具の使用)——e-Gov法令検索で条文を確認
- 民法(明治29年法律第89号)第209条(隣地の使用)——2023年4月1日施行の改正後の条文
最終確認日:2026年8月25日。法令は改正されることがあります。実際の工事の可否や方法は、現地を見た施工業者と、必要に応じて専門家にご確認ください。