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外壁塗装は修繕費になる?耐用年数は何年?——国税庁の原文で答えます
アパートの大家さん、自宅兼事務所の個人事業主、会社の建物を塗り替える経理担当。立場は違っても、検索している問いは同じです。「この塗装代、その年の経費で落ちるのか。それとも何年かに分けるのか」。ネットには「修繕費でいけます」「いや資本的支出です」と正反対の記事が並んでいますが、判定の元になる文章は国税庁が公式に全文公開しています。このページは、その原文を順番に読みながら、「修繕費の線引き」「迷ったときの金額基準」「償却するなら何年か」、そして「外壁塗装の耐用年数」という言葉に3つの意味が混ざっている問題まで整理します。
このページの内容全14項目
- 先に全体地図——あなたはどの立場ですか
- 原則——「名目でなく実質」。維持管理・原状回復なら修繕費
- 迷ったときの「金額の物差し」——20万円・3年・60万円・10%
- 条文の番号——個人の大家さんは「所得税基本通達37-10」から
- 資本的支出になったら、何年で償却するのか
- 「外壁塗装(外壁工事)の耐用年数」——この言葉には3つの意味が混ざっています
- ①塗料の耐用年数——メーカーが公表している数字を、そのまま並べます
- ③外壁材と部位の耐用年数——公的機関の表が2つあり、ほぼ一致しています
- 1回の工事に修繕費と資本的支出が混ざるとき
- 外壁塗装の勘定科目と仕訳——科目は、判定が終わってから決まります
- 災害で傷んだときは、別の条文があります
- 自宅だけの外壁塗装は、経費になりません
- よくある質問
- 参考にした情報
先に全体地図——あなたはどの立場ですか
この話は、立場によって入口が変わります。最初に自分の行き先を確かめてください。
- 賃貸物件の大家・事業用の建物——この記事の本編です。修繕費か資本的支出かの判定に進んでください。アパート特有の入居者対応はアパートの外壁塗装のページにあります。修繕の時期と積み立ての目安はアパートの大規模修繕のページにまとめました。
- 自宅兼事務所・店舗兼住宅——事業に使っている割合の分だけが対象になります。判定の考え方は本編と同じです。
- 純粋な自宅だけ——残念ながら、経費や確定申告で戻ってくる話ではありません。詳しくは下の章へ。かわりに、固定資産税が上がる心配もないこと(塗装と固定資産税のページ)と、自治体の助成金を確認してください。
原則——「名目でなく実質」。維持管理・原状回復なら修繕費
まず、法人税側のタックスアンサー(国税庁の公式解説)の冒頭を、そのまま読みます。
「固定資産の修理、改良等のために支出した金額のうち、その固定資産の維持管理や原状回復のために要したと認められる部分の金額は、修繕費として支出した時に損金算入が認められます」「ただし、その修理、改良等が固定資産の使用可能期間を延長させ、または価値を増加させるものである場合は、その延長および増加させる部分に対応する金額は、修繕費とはならず、資本的支出となります」(国税庁 タックスアンサー No.5402)
個人の不動産所得・事業所得でも枠組みは同じで、所得税側のNo.1379に同趣旨の記載があります。そして両方に共通して書かれているのが、この一文です——「修繕費になるかどうかの判定は修繕費、改良費などの名目によって判断するのではなく、その実質によって判定します」。見積書に「修繕工事」と書いてあるから修繕費、ではない。逆に「改修工事」と書いてあるから資本的支出、でもない。中身で決まる、が出発点です。
では外壁塗装の「中身」はどちら側なのか。判定の軸をそのまま塗装に当てはめると、こう整理できます。
- 修繕費の側に寄る要素——劣化した塗膜を塗り直して、建てたときの状態に近づける。色も仕様も従来どおり。これは「維持管理・原状回復」の典型的な説明に沿う工事です。
- 資本的支出の側に寄る要素——国税庁が資本的支出の例に挙げるのは「物理的に付け加えた部分」「用途変更のための模様替え」「部分品を特に品質や性能の高いものに取り替えた場合の、通常の取替えの金額を超える部分」。塗装で言えば、単なる塗り直しを超えて建物の価値や耐久性を明確に高める内容——たとえば大幅なグレードアップや、外壁の仕様変更をともなう工事——が議論になる領域です。
当サイトは「あなたの工事はこちらです」と断定しません。国税庁自身が実質判定と言っている以上、内訳を見ずに答えを言うのは不誠実だからです。施主にできる準備はひとつ——見積書を「一式」にせず、工事の内訳・塗料の製品名・数量まで書いてもらうこと。判定するのが税理士でも税務署でも、材料がなければ判定できません。
迷ったときの「金額の物差し」——20万円・3年・60万円・10%
実質で判定と言われても、迷う工事は必ずあります。そのために国税庁は、金額と周期の形式基準を用意しています。No.5402の原文から拾うと、順番はこうです。
- ①一つの修理・改良の金額が20万円未満、またはおおむね3年以内の周期で行われることが実績などから明らかな修理・改良——修繕費にできます。
- ②修繕費か資本的支出か明らかでない金額について、支出額が60万円未満のとき、またはその固定資産の前事業年度末の取得価額のおおむね10パーセント相当額以下のとき——修繕費にできます。
- ③それでも明らかでない場合——法人が継続して「支出額の30パーセント」と「取得価額の10パーセント」の少ない方を修繕費とし、残額を資本的支出とする処理も認められています(継続適用が条件)。
外壁塗装は足場を含めて100万円前後になることが多い工事なので(相場のページ)、①の20万円未満には収まらないのがふつうです。だから実務の焦点は、「そもそも原状回復の塗り替えとして修繕費と説明できるか」と、②の取得価額10パーセント基準に移ります。ここから先の当てはめは、物件の取得価額や過去の処理との一貫性がからむので、顧問税理士か所轄税務署に、内訳の分かる見積書を持って相談してください。
もうひとつ、原文で確認できることがあります。台風などの災害で被害を受けた建物について、原状を回復するために支出した金額は修繕費と明記されています(No.5402「災害により固定資産について被害を受けた場合」)。風災で傷んだ外壁の補修と塗装が一体になるケースでは、この節が根拠になります。保険側の話は火災保険のページへ。
条文の番号——個人の大家さんは「所得税基本通達37-10」から
ここまでタックスアンサー(No.5402)を引いてきました。あれは法人税の側の解説です。個人で賃貸をしている方は、所得税の側に同じ内容の条文があります。番号を書いておきます。税務署や税理士に相談するとき、番号で示せると話が早く進みます。
| 条文 | 見出し | 何が書いてあるか |
|---|---|---|
| 37-10 | 資本的支出の例示 | 「当該固定資産の価値を高め、又はその耐久性を増すこととなると認められる部分に対応する金額」が資本的支出 |
| 37-11 | 修繕費に含まれる費用 | 「通常の維持管理のため、又は災害等によりき損した固定資産につきその原状を回復するために要したと認められる部分の金額」が修繕費 |
| 37-12 | 少額又は周期の短い費用 | 20万円未満、またはおおむね3年以内の周期という形式基準 |
| 37-13 | 形式基準による修繕費の判定 | 「(1) その金額が60万円に満たない場合 (2) その金額が…前年12月31日における取得価額のおおむね10%相当額以下である場合」 |
| 37-14 | 区分の特例 | 継続適用を条件とする割合による区分 |
| 37-15の2 | 耐用年数経過後の資産 | 後述します。築古の物件で誤解されやすいところです |
出典=国税庁 法令解釈通達「所得税基本通達」第5節〔資本的支出と修繕費等〕。37-13は令和6年(令6課個2-12ほか)に改正されています。相談の前に、いまの条文を国税庁のページで確かめてください。
築古でも「もう償却し終わったから全部修繕費」にはなりません
37-15の2を、そのまま引きます。
耐用年数を経過した減価償却資産について修理、改良等をした場合であっても、その修理、改良等のために支出する金額に係る資本的支出と修繕費の区分については、一般の例によりその判定を行うことに留意する。
出典=所得税基本通達37-15の2(昭57直所3-1追加)
木造アパートの法定耐用年数は22年です。それを過ぎた物件を持っていると、「帳簿上はもう価値がないのだから、何を直しても経費だろう」と考えたくなります。条文は、そうならないと言っています。判定は築年数と関係なく、37-10と37-11の中身で決まります。
資本的支出になったら、何年で償却するのか
「資本的支出になったら、塗料の寿命の10年とか15年で償却するの?」——ここが、いちばん誤解されている場所です。答えは原文にあります。
「その資本的支出を行った減価償却資産と種類および耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして、その資本的支出とされた金額を取得価額として減価償却を行います」(国税庁 タックスアンサー No.2107・平成19年4月1日以後の資本的支出の原則)
つまり、資本的支出とされた外壁塗装の償却に使うのは、塗料が何年もつかではなく、建物本体と同じ「法定耐用年数」です。木造アパートなら木造の、鉄筋コンクリートのマンションならその構造の耐用年数で、新しい資産をひとつ取得したものとして償却していく。「シリコン塗料だから10年で償却」といった計算は、制度上存在しません。
ネットで「外壁塗装 耐用年数 30年」という検索が立っているのは、おそらくこの混同が原因です。建物の法定耐用年数(構造・用途ごとに定められた年数)と、塗料の寿命の話が、同じ「耐用年数」という言葉で書かれて混ざっている。次の章で言葉を割ります。
「外壁塗装(外壁工事)の耐用年数」——この言葉には3つの意味が混ざっています
先に振り分けます。「自分の家をいつ塗ればいいのか」を知りたい方は、このページではなく外壁塗装は何年ごと?のページへどうぞ。——そちらは塗料の耐用年数と、公的資料が示す点検・全面補修の目安を扱っています。このページから先は帳簿の話(法定耐用年数)です。
検索結果でも見積もりの席でも、「耐用年数」は次の3つの意味で使われています。どの意味で話しているかを確かめないと、会話がすれ違います。(「外壁工事の耐用年数」という言い方も同じ意味で使われます。塗装だけか、張り替えまで含むかで呼び方が変わるだけです。)
| 言葉の意味 | 中身 | 詳しいページ |
|---|---|---|
| ①塗料の耐用年数 | 塗膜が保護機能を保つおおよその期間。メーカーの期待耐用年数として公表され、グレード(ウレタン・シリコン・フッ素・無機)で変わる | 塗料の種類/平米単価 |
| ②建物の法定耐用年数 | 税務上の減価償却のための年数。構造・用途ごとに法令で決まっている。資本的支出の償却はこちらを使う | この記事の前の章 |
| ③外壁材そのものの寿命 | サイディングやモルタルという板・下地側の耐久の話。塗装は①でこれを守る関係 | 外壁材は何年もつ? |
たとえば「外壁塗装の耐用年数は30年ですか?」という質問は、①の意味なら「30年を公式にうたう塗料はごく限られ、条件付き」という答えになり、②の意味なら「塗装ではなく建物の構造で決まる」という答えになります。同じ質問に、意味の数だけ答えがある——ネットの記事が食い違って見える理由の大半は、これです。
①塗料の耐用年数——メーカーが公表している数字を、そのまま並べます
ここからは、税務を離れて①の話です。「外壁塗装の耐用年数」で最も多く求められているのは、じつはこちらでしょう。ただ、ネット上の「シリコンは10年、フッ素は15年」という一覧は、たいてい出どころが書かれていません。当サイトでメーカーの公式資料を1社ずつ当たった結果を、そのまま置きます。
| メーカー・製品 | 公表されている期待耐用年数 | どこに書いてあるか |
|---|---|---|
| 関西ペイント アレスダイナミックTOP | 15年(30年で塗替え2回の図) | カタログNo.774および公式サイトの「塗り替えサイクルコスト」の図の中 |
| 関西ペイント グレード別の一般値 | アクリル5年/ウレタン8年/シリコン10年/フッソ15年 | 同カタログ「塗料の種類」の図の横軸「平均的塗替周期(年)」 |
| ロックペイント ハイパーユメロック | 12〜15年 | 製品説明書の製品要綱・商品検索の一覧 |
| ロックペイント サンフロンUV | 15〜20年 | 同上 |
| 水谷ペイント ナノウォール20/15/10 | 20年相当/15年相当/10年相当 | ナノテクシリーズ カタログ(表紙が「耐久性で選ぶ」) |
| プレマテックス グランデ無機 | 30年超え | 製品情報>上塗り材の製品ページ |
| プレマテックス タテイルα プレミアムエディション | 約18〜20年 | パンフレット12ページの図の中だけ |
| 日本ペイント パーフェクトシリーズ | 掲載なし | 製品対比表に耐用年数の行そのものが無い。かわりに「塗装10年経過物件の事例」を載せている |
この表から読み取れることが3つあります。
- ①グレード名だけでは年数が決まりません。「シリコン10年」は関西ペイントが図に置いた一般値であって、実際の製品では12〜15年と書く会社もあります。年数を知りたいなら、グレードではなく製品名で調べる——これが正しい順番です。見積書に製品名が書かれていない場合、そもそも調べようがありません(見積もりの内訳のページ)。
- ②屋根用は、同じシリーズでも外壁用より短い。ロックペイントはハイパーユメロック12〜15年に対してハイパーユメロックルーフ8〜10年、サンフロンUV15〜20年に対してサンフロンルーフ10〜15年と、屋根側を短く公表しています。理由は日射量で、プレマテックスは屋根と外壁の日射量の比を約1.5倍と自社資料に書いています(東京地点南向き・NEDOの日射量データベースより同社作成)。外壁と屋根を同時に塗っても、次の塗り替え時期はそろいません。水谷ペイントだけは逆の設計で、「屋根の耐久性を上げて外壁との劣化速度を合わせている」と書いています。
- ③メーカー自身が「保証ではない」と明記しています。プレマテックスは期待耐用年数の定義ページで「塗膜の下地保護機能が著しく低下し塗り替えが必要とされる時期の目安」「保証年数ではありません」「経過しても直ちに塗り替えが必要とは限りません」と書き、光沢保持率40%未満を塗り替え推奨期としています。ロックペイントも「塗装する地域、立地条件、塗装面の方角によって異なります」と添えています。
税務との関係で、いちばん大事な一行。この章の年数は、②の償却には一切使えません。資本的支出になった外壁塗装は、塗料が何年もつかに関係なく、建物本体と同じ法定耐用年数で償却します。「フッ素15年だから15年で償却」という計算は、制度上存在しません。
塗料そのものの選び方——価格差と年数差が見合うかどうか——は塗料の種類のページで、公式の設計価格を並べて比べています。
③外壁材と部位の耐用年数——公的機関の表が2つあり、ほぼ一致しています
③は「板そのものが何年もつか」の話です。ここには、メーカーではなく公的機関が出している表があります。しかも2つあって、別々に作られたのに数字がよく揃っています。
ひとつは住宅金融支援機構(旧・住宅金融公庫)の「マイホーム維持管理の目安【一戸建て(木造住宅)】」。同機構が返済中の方向けに公開しているPDFで、部位ごとに点検時期と取替えの目安が書かれています。外まわりを抜き出します。
| 部位 | 点検時期の目安 | 取替えの目安 |
|---|---|---|
| 金属板サイディング壁(金属系) | 2〜3年ごと | 15〜20年位で全面補修を検討(3〜5年ごとに塗替え) |
| サイディング壁(窯業系) | 3〜4年ごと | 15〜20年位で全面補修を検討 |
| タイル貼り壁 | 2〜3年ごと | |
| モルタル壁 | ||
| 金属板葺き(屋根) | 2〜3年ごと | 10〜15年位で全面葺替えを検討(3〜5年ごとに塗替え) |
| 屋根用化粧スレート葺き | 4〜6年ごと | 15〜30年位で全面葺替えを検討 |
| 瓦葺き | 5〜6年ごと | 20〜30年位で全面葺替えを検討 |
| 雨どい(塩化ビニル製) | 2〜3年ごと | 7〜8年位で全面取替えを検討 |
| 軒裏(軒裏天井) | 15〜20年位で全面取替えを検討 | |
| バルコニー アルミ部 | 3〜5年ごと | 15〜20年位で全面取替えを検討 |
| バルコニー 鉄部 | 2〜3年ごと | 10〜15年位で全面取替えを検討(3〜5年ごとに塗替え) |
| バルコニー 木部 | 1〜2年ごと | 15〜20年位で全面取替えを検討(2〜3年ごとに塗替え) |
| 基礎(コンクリート基礎立上り) | 5〜6年ごと | — |
出典=住宅金融支援機構「マイホーム維持管理の目安【一戸建て(木造住宅)】」。同機構は「工法、仕様、所在地の気候等によっては、点検・補修の項目や時期は異なってくることがあります」と断っています。
もうひとつは国土交通省の長期優良住宅化リフォーム推進事業「維持保全計画書 参考様式(木造戸建の例)」です。こちらは外壁を「3年でトップコート吹替え」「15年で全面補修を検討」、雨樋を「7年で取替」、軒裏天井を「15年で取替」としています(詳しくは何年ごとに塗るかのページ)。並べると、こうなります。
| 部位 | 国土交通省の様式 | 住宅金融支援機構 |
|---|---|---|
| 外壁 | 3年ごとに点検/15年で全面補修 | 2〜4年ごとに点検/15〜20年で全面補修 |
| 屋根(スレート) | 5年ごとに点検/20年で葺替え | 4〜6年ごとに点検/15〜30年で葺替え |
| 雨どい | 7年で取替 | 7〜8年で全面取替え |
| 軒裏天井 | 15年で取替 | 15〜20年で全面取替え |
作った役所も目的も違うのに、4部位すべてで重なっています。ここから言えることが3つあります。
- 外壁の「全面」は15年前後に置かれている。10年でも12年でもありません。2つの公的資料がそろって15年台を起点にしています。「10年で塗らないと危ない」という語り口とは、明らかに温度が違います。
- 点検の間隔は2〜6年。どちらの表も、10年ごとに見ろとは言っていません。短い間隔で見て、傷んでいたらそのとき直す——これが公的な資料の考え方です。見るだけならお金はかかりません。
- 「◯年ごとに塗替え」と書かれているのは、金属・鉄部・木部だけ。窯業系サイディングやモルタルの行に、塗替えの周期は書かれていません。逆にバルコニーの木部は2〜3年ごと、鉄部と金属サイディングは3〜5年ごとと、外壁本体よりはるかに短い数字が入っています。付帯部だけ先に傷んで見えるのは、気のせいではありません(付帯部のページ)。
外壁材のメーカー側が「40年」「30年」と言うときに何を指しているのかは、外壁材は何年もつ?のページで分けています。板の寿命(③)と塗膜の寿命(①)は別の数字で、①で③を守るという関係です。
1回の工事に修繕費と資本的支出が混ざるとき
実務でいちばん多いのが、この形です。1回の外壁工事の中に、原状回復の塗り替えと、それを超える工事が混ざっているケース。たとえば、傷んだ面はサイディングを張り替え、残りは塗装する。あるいは塗装と同時に、使っていなかった部分に手を入れる。
この場合、「工事1件でどちらか一方に決める」必要はありません。国税庁の解説も、修繕費か資本的支出かを金額の内訳ごとに判定する前提で書かれています(明らかでない部分についての形式基準が用意されているのも、そのためです)。だから施主・オーナー側でやるべきことは、はっきりしています。
- ①見積書と請求書を、工事の種類ごとに分けてもらう——「外壁工事一式」では、税理士も税務署も分けようがありません。塗装は塗装、張り替えは張り替えで行を分けてもらう。
- ②数量と製品名を残す——何㎡を塗り、何㎡を張り替えたのか。使った製品は何か。あとから証明できる形にしておきます。
- ③工事前後の写真を保管する——「どういう状態だったから、その工事をしたのか」を示す材料になります。とくに災害の復旧が絡む場合、原状回復であることの裏づけとして効きます。
この3つが揃っていれば、判定は税理士の仕事として完結します。逆に、これが揃っていない状態で「修繕費で落ちますか」と聞かれても、専門家は答えようがありません。税務の準備は、確定申告の時期ではなく見積もりの席から始まっています(見積もりの内訳のページ)。
この3点は、税務のためだけの話ではありません。住宅金融支援機構は、補修工事をしたときに保管しておく記録として、次の4つを名指ししています——「工事図面/工事費代金内訳書(見積書)/工事請負契約書(約款を含む)/工事箇所に係る写真(工事前・工事後)」。公的機関が保管対象に挙げているのは「見積書」ではなく「工事費代金内訳書(見積書)」——つまり内訳のある書類です。同機構は理由もあわせて書いています。「将来、住宅を売却する時には、保管してきた記録をそのまま相手に渡すことによって、『住まいが適切に維持管理されている』ことを伝えることができます」。税理士に見せる書類と、次の塗り替えのときに見返す書類と、売るときに渡す書類は、同じ4点です。
この3つを頼めるかどうかも、会社によって差が出ます。「一式」で出す会社に行を分けてくれと頼むより、最初から内訳を出す会社を選ぶほうが早い——賃貸物件やアパートの塗装なら、この差はそのまま税務の手間に跳ね返ります。
外壁塗装の勘定科目と仕訳——科目は、判定が終わってから決まります
「外壁塗装 勘定科目」「外壁塗装 仕訳」で調べてこられた方へ。先に結論を書きます。科目を先に決めることはできません。修繕費なのか資本的支出なのかが決まって、はじめて科目が決まります。原則の章から金額の物差しまでが、その判定の中身です。
| 判定の結果 | 借方の科目 | その後どうなるか |
|---|---|---|
| 修繕費 | 修繕費 | その期の費用になります(損金・必要経費) |
| 資本的支出 | 建物 | 取得価額として資産に載り、建物と同じ法定耐用年数で償却していきます |
| 両方が混ざる | 修繕費と建物の2行 | 内訳ごとに分けて計上します。1件の工事でどちらか一方に寄せる必要はありません |
仕訳の形(金額は説明のための仮の数字です)
80万円の外壁塗装を普通預金から支払った場合で書きます。
| ケース | 借方 | 貸方 |
|---|---|---|
| 全額が修繕費 | 修繕費 800,000 | 普通預金 800,000 |
| 全額が資本的支出 | 建物 800,000 | 普通預金 800,000 |
| 混ざる(塗装50万・張り替え30万) | 修繕費 500,000 建物 300,000 | 普通預金 800,000 |
資本的支出にした分は、払った期に全額が費用になるわけではありません。決算で減価償却費を計上して、年数をかけて費用にしていきます。その年数が塗料の寿命ではなく建物の法定耐用年数だ、というのが前の章の話です。
帳簿に「修繕費」と書いても、判定は変わりません
ここがいちばん間違えやすいところです。科目名を「修繕費」にしたから修繕費として認められる、ということはありません。このページの原則に戻ります。
その支出が修繕費であるか資本的支出であるかは、その支出の名目によるのではなく、その実質により判定する(国税庁 タックスアンサー No.5402の趣旨)
見積書に「修繕工事」と書いてもらっても、帳簿の科目を修繕費にしても、実質が資産の価値を高める工事なら資本的支出です。「修繕費で落とせますよ」という営業の言葉が判定にならないのも、同じ理由です(業者選びのページ)。効くのは名前ではなく、内訳・数量・写真のほうです。
ここに書いたのは科目の対応関係だけです。消費税をどう扱うか、減価償却を直接法と間接法のどちらで書くか、着手金と残金が決算期をまたぐ場合にいつ計上するか——このあたりは、その方の会計処理の仕方と契約の中身によって変わります。実際の記帳は、顧問税理士か所轄の税務署に確認してください。
災害で傷んだときは、別の条文があります
台風や豪雨、地震で外壁が傷んだ場合は、通常の判定とは別の扱いが用意されています。個人の大家さんに効く条文を2つ挙げます。
37-12の2——被災前の効用を維持するための工事
災害により被害を受けた固定資産…の被災前の効用を維持するために行う補強工事、排水又は土砂崩れの防止等のために支出した費用の額…を修繕費の額として当該業務に係る所得の金額を計算し、それに基づいて確定申告を行っているときは、37-10にかかわらず、これを認めるものとする。
出典=所得税基本通達37-12の2(平7課所4-16、平29課個2-13ほか改正)
「37-10にかかわらず」——ここが要点です。ふだんなら「価値を高める・耐久性を増す」に当たって資本的支出になりそうな補強工事でも、被災前の状態に戻すためのものなら修繕費として申告してよい、と書いてあります。
ただし条文には但し書きがあります。「被災固定資産の復旧に代えて資産の取得をし、又は特別の施設…を設置する場合の当該資産の取得…は新たな資産の取得に該当」。直すのではなく、新しいものに替えたなら別扱いです。
37-15の3——貸している建物が災害で壊れたとき
平成29年に追加された条文です。賃貸している建物について、契約上は修繕義務がない場合でも、災害で被害を受けて原状回復をしたなら、その費用を修繕費として必要経費に算入していれば認める——という内容です。
浸水した家の片づけと消毒については、浸水した家の消毒と臭いにまとめました。乾く前に外壁を塗ってはいけないという順番の話も、そちらにあります。保険の側は火災保険で屋根の修理はできる?へ。
ここに書いたのは条文の中身だけです。自分の工事がどれに当たるかの判定は、税理士か所轄の税務署の仕事です。内訳の分かる見積書を持って相談してください。「外壁塗装一式」としか書かれていない見積書では、修繕費と資本的支出を分けようがありません。
自宅だけの外壁塗装は、経費になりません
最後に、検索している人がいちばん多いのに、はっきり書かれないことを書きます。事業にも賃貸にも使っていない自宅の外壁塗装は、修繕費にも減価償却にもなりません。修繕費の話は、そもそも「貸付けや事業の用に供している」資産の話だからです(No.1379の書き出しがそのまま根拠です)。サラリーマンの持ち家の塗装代を確定申告で取り戻す仕組みは、原則ありません。
ただし、ゼロ回答ではありません。自宅の人が確認する価値があるのは、次の3つです。
- 自治体の助成金・補助金——外壁塗装そのものに補助を出す自治体があります。地域別のまとめで確認を。
- 固定資産税の心配は不要——塗装で評価は見直されません。市役所の原文つきの解説を。
- 自宅兼事務所なら按分——建物の一部を事業に使っているなら、その割合に応じた部分は本編の判定に乗ります。割合の決め方から税理士に相談してください。
実務でひとつ大事なことがあります。修繕費と資本的支出を分けるには、見積書の内訳が分かれている必要があります。「外壁塗装一式」では、どこまでが原状回復でどこからが機能向上なのかを説明できません。見積もりを頼む段階で、工事の区分ごとに金額を出してほしいと伝えてください。何社かに同じ頼み方をすると、内訳を書ける会社かどうかがはっきりします。税務の処理は、その見積書と請求書が土台になります。
よくある質問
外壁塗装の勘定科目は何ですか?
判定の結果で変わります。修繕費と判定されるなら勘定科目も「修繕費」。資本的支出と判定されるなら「建物」に計上して減価償却します。先に科目を決めるのではなく、この記事の判定が先、科目はその結果です。1件の工事に両方が混ざるときは、修繕費と建物の2行に分けて計上します。仕訳の形は「外壁塗装の勘定科目と仕訳」の章にまとめました。なお、帳簿の科目名を「修繕費」にしても判定は変わりません(名目でなく実質による判定)。
アパートの外壁塗装は修繕費にできますか?
劣化にともなう原状回復の塗り替えであれば、修繕費として説明できる典型的な類型です。ただし判定は名目でなく実質。内訳と製品名の書かれた見積書を揃えて、税理士か税務署に確認してください。大家業ならではの段取り(入居者への告知・ベランダの荷物)はアパートの外壁塗装のページにまとめています。
外壁塗装の償却年数は何年ですか?
資本的支出とされた場合の償却は、塗料の寿命ではなく、その建物と同じ種類・耐用年数の資産を新たに取得したものとして行います(No.2107)。木造かコンクリート造か、住宅用か事務所用かで年数が変わるので、自分の建物の法定耐用年数を確認してください。
賃貸に出していない空き家の外壁塗装は、経費になりますか?
修繕費の話は「貸付けや事業の用に供している」資産が前提です(国税庁No.1379)。したがって、誰にも貸しておらず事業にも使っていない空き家の塗装費用は、原則としてその年の必要経費にはなりません。将来賃貸に出す予定がある場合の扱いは、いつから貸付けの用に供したと言えるかという個別判断になるので、税理士に確認してください。
領収書や見積書は、何年保管すればいいですか?
保存期間は個人か法人か、青色か白色かなどで異なります。当サイトでは年数を断定しませんが、実務的には「資本的支出として資産計上したものは、償却が終わるまで手元に残す」と考えておくと安全です。塗装は10年単位で次の工事が来るので、前回の見積書と写真が残っていること自体が、次回の判断材料にもなります。保存期間の正確なところは、所轄の税務署か税理士にご確認ください。
「修繕費で落とせます」と業者に言われました。信じていいですか?
税務の判定は塗装業者の仕事ではありません。善意で言っていても、判定の権限も責任も業者にはない、という構造は変わりません。業者にお願いすべきことはひとつ——内訳の分かる見積書と請求書を出してもらうこと。判定は、それを持って税理士か税務署へ。
台風の被害を直すついでに全体を塗装しました。どうなりますか?
災害で被害を受けた資産の原状回復のための支出は修繕費と原文に明記されています。ただし被害の復旧部分と、それを超えるグレードアップ部分が混ざる場合は区分の論点が出ます。工事前後の写真と内訳を残して、税理士に相談してください。保険との関係は火災保険のページへ。
塗料メーカーの「期待耐用年数」は保証ですか?
保証ではありません。プレマテックスは定義ページで「塗膜の下地保護機能が著しく低下し塗り替えが必要とされる時期の目安」「保証年数ではありません」「経過しても直ちに塗り替えが必要とは限りません」と明記しています。ロックペイントも「塗装する地域、立地条件、塗装面の方角によって異なります」と添えています。保証は塗料メーカーではなく、施工した会社が出すものです(保証のページ)。
公的な資料では、外壁は何年で塗り替えることになっていますか?
「何年で塗り替え」と年数で断定した公的資料は見当たりません。住宅金融支援機構の「マイホーム維持管理の目安」は、窯業系サイディングやモルタル壁について点検を2〜4年ごと、全面補修の検討を15〜20年位としていますが、塗替えの周期そのものは書いていません。塗替えの周期が書かれているのは金属サイディング・鉄部・木部で、3〜5年ごと(木部は2〜3年ごと)です。国土交通省の維持保全計画書の参考様式も、外壁は3年ごとに点検・15年で全面補修を検討としています。詳しくは上の章をご覧ください。
参考にした情報
最終確認日:2026年9月10日(税務の各記載は2026年8月24日)。出典:国税庁 タックスアンサー No.5402「修繕費とならないものの判定」(「維持管理や原状回復のために要したと認められる部分の金額は、修繕費として支出した時に損金算入が認められます」、名目でなく実質による判定、20万円未満・おおむね3年周期、60万円未満・取得価額のおおむね10パーセント、継続適用の30パーセント基準、災害時の原状回復費用の扱いの各記載)/同 No.1379「修繕費とならないものの判定」(所得税側の同趣旨の記載、貸付け・事業の用に供している資産が対象である旨)/同 No.2107「資本的支出を行った場合の減価償却」(「種類および耐用年数を同じくする減価償却資産を新たに取得したものとして」償却する旨)。本ページは公開されている制度の一般的な解説であり、個別の税務判断を行うものではありません。適用の判断は必ず税理士または所轄の税務署にご確認ください。①③の章の出典:住宅金融支援機構「入居後の住まいの保守管理」および同「マイホーム維持管理の目安【一戸建て(木造住宅)】」(部位別の点検時期・取替えの目安、保管する記録4点、売却時に渡すことの記載)/国土交通省 長期優良住宅化リフォーム推進事業「維持保全計画書 参考様式(木造戸建の例)」/関西ペイント カタログNo.774および公式サイトの図/ロックペイント 製品説明書の製品要綱/水谷ペイント「ナノテクシリーズ」カタログ/プレマテックス 製品ページ・パンフレット・期待耐用年数の定義ページ/日本ペイント 新パーフェクトシリーズ カタログの製品対比表。メーカーが公表する期待耐用年数は保証年数ではなく、立地・方角・気候によって前後します。